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2013年3月27日水曜日

上山介護殺人事件判決文

上山介護殺人事件の判決文です。涙無しには読めません。

主文
 被告を懲役3年に処する。執行猶予5年
 未決勾留日数中90日をその刑に参入する。この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
                                          理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成21年4月2日午後3時頃、山形県上山市…の被告人方1階6畳寝室において妻の…に対し、殺意をもって所携のネクタイでその頚部を絞めつけるなどし、そのころ、同所において、同人の頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
(証拠の標目)

(法令の適用)

(量刑の理由)
1.本件は被告人が妻の介護の行く末を悲観して心中を企て、妻の首をネクタイなどで絞めて殺害したという殺人1件の事案である。
 このような介護の負担に起因して心中を企てた殺人事件に関する量刑は、おおむね懲役3年執行猶予5年から懲役5年の実刑の間に分布している。また、約5割が執行猶予付きの判決である。本件ではこれを前提に検討する。
2.(1)被告人は昭和23年に被害者と結婚し、夫婦2人で農業に従事して懸命に働き、3人の子どもを育て上げ、約60年間にわたって周囲も認める仲の良い夫婦として人生を歩んできた。平成15年頃被害者は自宅で転倒して骨折し、以後入退院をくり返し、次第に寝たきり状態になり、平成17年頃には、認知症も発症して、平成19年には最も重い身体障害1級の診断を受けた。被告人は福祉施設のデイサービスなどの介護サービスを利用しながら自宅で一人で被害者を介護していたが、その介護の状況は被害者に床ずれを作らせないなど、医師やヘルパーも感心するほど行き届いたものであった。
 一方、被告人自身84歳と高齢で、…介護が必要な状態となっており、体調も悪化して、被害者よりも先に自分が病死するのではないかという不安も抱くようになっていた。また、介護ヘルパーやデイサービスなどに要する介護費用、被告人と被害者の医療費などは、被告人と被害者の年金から捻出していたが、年金だけでは足りず、被告人は少ない貯金を切り崩しながら生活していた。被告人は、介護の負担に加えて、このような自らの健康上の不安や経済的不安を抱え、被害者の体調が一向に良くならないから、このまま生きていてもみじめになるだけで、また、自分が先に病死すると被害者は十分な介護が受けられないし、長男や子どもにも迷惑をかける、被害者を施設に入れるにも費用が出せない、いっそ被害者と二人で死んだ方がだれにも迷惑をかけないなどと思い詰め、平成21年4月から介護料金が上がると知ったことを契機に、被害者を道連れに自殺しようと決意し、本件犯行に至り、被害者殺害後は自殺を試み、被害者のために来訪した介護ヘルパーに発見され、自殺を止められた。
 犯行に至る経緯、動機はまことに同情すべきものがある。
(2)一方、検察官は被告人には家族や行政に助けを求めるなどの手段があったから、本件犯行の動機は身勝手で安易であると主張する。
 確かに、被告人が助けを求めることによって事態が改善した可能性がある。しかし、被告人の家族にも病気や仕事などの事情があったから、その助けが得られるとは限らないし、家族に迷惑をかけることを恐れる被告人の心情も理解できる。
 また、介護保険などの行政サービスや民間の介護サービスが充実してきたとはいえ、証人…の公判供述からもうかがわれるとおり、いわゆる老老介護や施設が十分にあるとまではいい難いところもあるから、被告人が経済的な不安から行政に助けを求める気持ちにならなかったことも理解できる。
 そうすると、確かに被告人が家族や行政に助けを求めるなどして本件犯行を回避しなかったことはまことに遺憾であるが、本件犯行の動機を身勝手であり安易であるとまで評価することはできない。
(3)犯行態様をみると、被告人は寝たきりで抵抗できない被害者の首を自分の手や準備していたネクタイで絞め、貴重な生命を奪っている上、被害者は「痛い痛い」と苦痛の声もあげていたのであるから、検察官も主張するとおり悪質であるといえる。
 しかし、他方では被告人は被害者の首に傷がつかないように気遣って、手やネクタイで首を絞めたりしたとのことであり、泣きながら「Hごめんな」、「俺もすぐいくからな」などと話しかけたり、生きている被害者と会える最後の機会であると考えて被害者に頬を寄せたりもしていて、犯行に際して被害者への配慮と謝罪の情も示しているから、このような事情も考慮に入れる必要がある。
(4)また、本件犯行により被害者はかけがえのない生命を奪われているから、犯行の結果はまことに重大といえる。
 被害者はよくしゃべり笑う明るい性格で、寝たきりになり話せなくなった後も、介護をする人に対しうれしそうな反応を見せたり、胃ろうの処置後は次第に表情がにこやかになってきたりしていた。また、認知症になるまでは、母親代わりとなって育てた2人の孫の将来を楽しみにしてもいた。
 認知症に罹患し、介護を受ける状態であったとはいえ、このような楽しみも奪われたことはまことに不憫である。
(5)被告人は本件犯行によって60年あまり連れ添いともに人生を歩んできた妻である被害者を失い深く悲しんでおり、その心情には同情を禁じ得ないが、被害者の長男も、被害者の死を深く悲しみ、被告人に対し厳罰を求めてはいないものの、被害者にはもう少し長生きしてほしかったと述べている。また、被害者の孫も、母親代わりになって育ててくれた被害者に自分の結婚式を見せたかったなどと延べ、被害者の死を深く悲しみ、他方では被告人にできるだけ軽い刑にしてほしいと望んでいる。
(6)以上によれば、本件犯行に至る経緯、動機には深く同情すべき点があり、他方で本件犯行結果は重大であるから、被告人の刑事責任を軽視することはできない。
3.また、すでに述べた事情に加え、被告人には以下の酌むべき事情がある。
①被告人は事案を認め、反省の態度を示すとともに、被害者の冥福を祈り、被害者の霊にわびたり話しかけたりするなどしており、真摯な反省、悔悟の念が認められる。
②…
③被告人の弟が、被告人の社会復帰に備えて被告人の入所する介護施設を手配し、社会復帰後の生活環境が整っている。
④被告人の弟が、情況証人として出廷して被告人の指導監督を約束している。
4.以上によれば、被告人の刑事責任を軽視することはできないが、他方では被告人のために相当に酌むべき事情があるといえる。そうすると本件は前記量刑分布の下限近くに位置づけるのが適切な事案であって、被告人を実刑に処するのは相当といえず、主文の刑を定め、その執行を猶予するのが相当である。
(求刑 懲役5年)
平成21年9月29日 

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