TPP問題で、あちらこちらで学習講演を行っています。そのレジュメをアップしますので、ご活用ください。
守岡等
「TPPと医療問題」
[レジュメ]
1.TPPとは何か、貿易問題になぜ医療が関係するのか
①TPPはTrans-Pacific Strategic Economy Partnership Agreementの略
環太平洋戦略的経済連携協定 TPSPと略すべき→日本のアメリカ化が目的
②安部首相は「国民皆保険制度は守る」と言っているが…
TPPで協議している24分野に「医療」の項目はない。
アメリカも「公的医療保険制度」の廃止は要求しないだろう
しかし
【知的財産権分野】
薬価や医療技術
【金融サービス分野】
民間医療保険の拡大
【投資分野】
株式会社の医療参入
医療とは関係ないようにみえる各分野の議論で公的医療保険制度の崩壊の危険
2.TPP以前の動き
(1)アメリカからの医療の市場化要求
①2001年10月(小泉内閣)「年次改革要望書」
・日本の医療に市場原理導入を要求
②2010年3月(鳩山内閣)「外国貿易障壁報告書」
・日本の医療サービス市場を外国企業へ開放することを要求
③2011年2月(菅内閣)「日米経済調和対話」
・新薬創出加算の恒久化、加算率の上限廃止、市場拡大算定ルールを廃止、外国平均価格調整ルートの改定
④2011年9月(野田内閣)米通商代表部「医薬品へのアクセス拡大のためのTPP貿易目標」
・不要な規制障壁の最小化などを要求
(2)日本政府の医療の営利化
①2010年6月「新成長戦略」
・医療、介護、健康関連産業は日本の成長牽引産業
②2011年1月「医療滞在ビザ」創設
・医療ツーリズム
③2011年4月「規制・制度改革に係る方針」
・医療法人と他の法人の役職員の兼務を検討開始
④2011年6月「総合特区法」
・特別養護老人ホームに営利企業が参入
⑤2011年7月「規制・制度改革に関する第二次報告書」
・公的医療保険の適用範囲の再定義
・国際医療交流
⑥2012年8月「社会保障制度改革推進法」
・社会保障制度は国の責任から家族相互、国民相互の助け合いの仕組みに
・保険主義の徹底と公費負担の削減
・給付内容の削減
3.TPPで日本の医療はどうなる
(1)薬価が跳ね上がる
医薬品の特許をたくさん持つアメリカの製薬企業
↓
TPP交渉で知的財産所有権の保護強化を主張
例)薬の特許権を延長し、新薬は保険の対象外にする(その間は安いジェネリックは作れない) 新薬の承認過程を短縮し、どんどん日本に入るようにする
↓
高い新薬は公的保険ではカバーしきれなくなる(混合診療の解禁)
(2)混合診療と患者負担
①現在の仕組み
現在は保険のきく診療と保険外の診療を受ける(混合診療)と、全額自己負担となる。患者負担(全額自費)
②混合診療が全面解禁されると
先進医療や新薬はその部分の全額自費で受けられるようになる。
ただし、全額自費部分を支払えるのは高所得者のみ
③全面解禁されて時間が経つと
新しい治療や医薬品は保険外になり、公的医療保険の給付範囲は時間と共に縮小する(その方が国の支出を抑えられる)
※将来、公的医療保険で受けられる医療は最小限に
(3)民間医療保険の拡大
・保険の効かない高額な先進医療や新薬の負担を軽減するために民間医療保険の参入が進む
外資系保険会社が莫大な広告費を払っているのはこの日のため
・民間保険に加入できない低所得者、病気持ちの人たちへの医療差別
<民間保険主体のアメリカの医療>
(1)日米医療制度の比較
①WHO(世界保健機関)による評価
日 本 米 国
◆保健医療制度の総合評価 1位 15位
◆国民一人あたり保健医療支出 13位 1位
②医療の質 日 本 米 国
◆平均余命上昇率(1960-2000年 13.4% 6.9%
◆乳幼児死亡率(出産千人当たり) 3.2人 6.9人
③医療のコスト 日 本 米 国
◆国民一人あたり医療費支出 310,874円 591,730円
◆総医療費支出(対GDP比) 7.8% 13.9%
④なぜこのような結果になるのか 日 本 米 国
◆公的医療保険加入者 100% 25%
◆民間医療保険加入者 無視し得る範囲 70%
◆無保険者 0% 15%
(2)実際のアメリカ医療の実情
子宮筋腫の治療費 日帰り外来手術 100万円以上 虫歯の治療 2本で1200ドル 13万円
「ニューヨークに赴任して2年、アメリカ生活で感じた不思議?をご紹介したいと思います。アメリカでまず驚かされたのは医療費の高さだ。ちょうど当地に赴任して1年経過したころ、突然、親知らずが痛くなった。歯医者に行ったところ、左上下の親知らずが虫歯と判明、治療より抜いたほうがよいと言うので、抜いてもらうことになった。1本600ドル、合わせて1,200ドルなり。このときはまだ、会社で加入している保険で費用のほとんどはカバーできるとの見込みがあったが、このほかに小さな虫歯が数本あると言われ、心配になって見積もりを依頼した。(医者はかなり渋っていたが。)この見積もり額はなんと4,000ドル。
こんなに高いと保険を使ってもかなりの足(約3,000ドル)が出てしまう。ダメ元でディスカウントをお願いしたところ、なんと保険でカバーできなかった分は請求しないという約束取りつけに成功。ラッキー!だが最終的に保険会社から思ったほど支払ってもらえず、材料費だけはと泣きつかれ、300ドルを支払った。過剰請求はこちらの常識とはいえ、医療費が値切れるとは・・・・。
出産費用 14,000ドル150万円
「今年の10月に次男が誕生した。そのときの出産、入院費用の合計はなんと1万4,000ドル。ほとんどが保険でカバーされているので問題ないが、日本と違い、社会保険制度が発達していないアメリカでは、個人、会社で保険に入れない人は子供も産めない。また、このとき、費用の請求方法にも驚かされた。なんと4枚もの請求書が届いたのだ。アメリカでは医療が専門化されているとは聞いていたが、医療費の請求方法もこれほど細分化されている。もう少し患者(客)に分かりやすい方法を取ってほしいものだ。 」
[出産費用請求内訳]
産婦人科医: 7,000ドル 麻酔科医 : 2,000ドル 小児科医 : 2,000ドル
入院費 : 3,000ドル 計 : 14,000ドル
(4)営利企業の医療参入
①日本では医療法で営利企業の病院経営参入を禁じている。(例外として企業立の株式会社病院)
保険診療の費用は公定価格(診療報酬)なので、営利目的の企業には魅力がない。
②営利企業の病院は高額の自由診療を目指す。そのために混合診療の全面解禁も要求。
③高額自由診療の病院が増えると、国は「自由診療でもうければいい」と診療報酬を引き上げない。高所得者のいない地方の公的医療保険病院は立ちゆかない。
④近くに高額診療の病院があっても、お金がなければ受診できない。
⑤営利企業(株式会社)は利潤追求が第一目的。安全性軽視、コスト削減、患者選定が進む。採算がとれなければすぐ撤退。
(5)恐ろしいISD条項 Investor(投資家)State(国家)Dispute(紛争)Settlement(解決)
①投資家と受け入れ国の間で紛争が起こったとき、国際投資紛争解決センター(世界銀行の一角)で処理。
②国内法(憲法)よりも条約・国際法が優位
③最悪の場合、日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして訴えられ、健康保険法の改正を求められることになる。
【NAFTAアメリカ・カナダ・メキシコ自由貿易協定】
・「カナダの郵便局は国家の補助をもらうから宏平ではない」とアメリカの民間会社が訴え、カナダは莫大な賠償金を払うことになった。
・メキシコではアメリカの会社がゴミ処理施設をつくろうとしたところ、住民が環境病を起こしたこ とで地方自治体が建設許可を却下。ISDに訴えられメキシコ政府は莫大な賠償金支払い。
【ラチェット規定】
いったん開放した部門を再び規制する「後戻り」はできない
4.米韓FTAで韓国の医療はどうなったか
①「認可-特許連携制度」条項
・特許権を持った製薬企業がジェネリック製薬企業に「特許侵害」を申し立てれば販売停止できる。(国民は安いジェネリック薬品は買えなくなる)
②「独立的検討機構」の設置条項
・薬価の決定や保険適用の可否において、政府の権限が弱まる。
③「営利病院の許諾を永続化する」条項
・営利病院では保険診療の6-7倍の支払い請求がされている。
・ラチェット規定があるため、韓国政府は営利病院を廃止できない。
・民間医療保険に対する規制も不可能に。
<カナダ、オーストラリアでは禁煙政策まで口だし>
・カナダやオーストラリアでは政府が進めていた禁煙政策に対し、アメリカの煙草会社がISDに提訴。
5.TPPで各分野はこうなる
①関税ゼロでアメリカ・オーストラリアの農産物がなだれ込み、日本農業は壊滅。食糧自給率は40% から13%に。350万人が失業。
②食の安全が脅かされる。食品添加物、ポストハーベスト、残留農薬、BSE、遺伝子組み換え作物な どの基準緩和を求めてくる。(遺伝子組み換えで25倍の重量の鮭も)
③金融・保険の自由化で簡保・郵貯が民間化。国債のほとんどを担うこれらの金融資産が外資に流れ るとどうなるか。
④学校も外資の株式会社に。英語教育、貴族主義の徹底。
⑤労働条件の悪化。従業員のリストラ、派遣化で人件費抑制し、株価を引き上げ企業買収・転売によ る売却益を得るようになる。
⑥労働者移住の自由化。東南アジアの安い労働力の移入→国内賃金水準の引き下げ
⑦日本も銃社会に。アメリカから輸入。
⑧国・地方の公共事業は加盟国すべてに入札を公示。アメリカの建設会社や人件費の安い東南アジア の進出の可能性。
6.問題だらけのTPPになぜ加盟するのか
①日米安全保障条約第2条
「両国間の経済協力を推進する」
これを根拠にアメリカは日本経済に介入、非関税施策の解除
②日本の財界
・日本経団連 TPP参加を提言
・すでに多国籍企業化した企業の利益を守るため(海外で生産したものを世界で売るためには関税障 壁がない方がいい)
7.TPP参加を阻止するために
①日米安全保障条約を廃棄する(一方の国の通告で可能)
②条約・国際協定は国会の批准が必要(憲法73条)
・国会がノーといえばTPP参加は避けられる
・昨年の総選挙前の毎日新聞候補者アンケート TPP反対244 賛成113 無回答53 非該当70
公約守れの運動を盛り上げる
・非常に重要な参院選
憲法守れの運動と連動した取り組みが必要
以上
[原稿]
安部首相は「国民皆保険制度は守る」と言ってますし、アメリカも「公的医療保険制度」の廃止を直接には要求してこないと思います。しかし、TPPの項目には知的財産分野があり、ここで薬価や医療技術が取り上げられ、金融サービス分野で民間医療保険の拡大が、投資分野で株式会社の医療参入が取り上げられることは必至です。医療とは関係ないようにみえる各分野の議論で、日本の公的医療保険制度解体の危険性が生まれるのです。
TPP参入によって日本の医療がどう変わるか
①医薬品の価格が跳ね上がる
アメリカの製薬企業にはたくさんの特許をもつ医薬品があります。TPP交渉でアメリカは知的財産所有権の保護強化を主張し、薬の特許権を延長し、安いジェネリック品への移行を妨げるでしょう。現在は2年ごとに薬価改定が行われ、段階的に引き下げられていますが、この制度の廃止を求めてくると思われます。
薬価審議会等にアメリカ代表を参加させ、加算率上限の撤廃などで際限なく新薬の価格が引き上げられる危険性があります。
高い新薬は公的保険ではカバーしきれなくなり、混合診療の解禁へつながります。
②混合診療の全面解禁
国の支出を抑えるため、新しい治療や医薬品は保険外となり、公的医療保険の給付範囲が縮小します。新しい治療や新薬は全額自己負担となり、高所得者のみが恩恵を受けるという医療差別が発生します。
すでに規制改革会議では「再生医療」の保険外併用療養化を検討しています。
③営利企業(株式会社)の医療参入
高額の自由診療を求めて営利企業の参入が進みます。すでに米韓FTAで韓国内に営利病院が建設されています。当然、お金のない人は受診できません。
高額自由診療の病院が増えると、国は「自由診療でもうければいい」と診療報酬を引き上げなくなり、高所得者の少ない地方の公的医療保険病院は立ちゆかなくなります。
また、営利企業は利潤追求が第一目的ですから、安全性軽視、コスト削減、患者選定が進みます。採算がとれない地域からは撤退し、医療崩壊が加速します。
④民間医療保険市場の増加
公的医療保険制度に代わって、民間医療保険の市場が増大します。介護保険の軽度者外しと自己負担増もその流れを助長します。アメリカの保険会社が手ぐすね引いて待っています。
民間保険会社は郵便局の保険事業部門、共済制度の市場開放も要求してくるでしょう。こうして郵貯・簡保など国民の財産が外資に流れ、現在、郵貯・簡保の比重が高い日本国債が外資に占められる事態も予想されます。
恐ろしいISD条項
このように日本の公的医療保険制度が危機的状況に陥り、公的医療保険制度を守ろうとする動きも出てきますが、TPPにはISD条項というものがあり、投資家が受け入れ国を訴える制度があり、アメリカの保険会社が日本の公的医療保険制度を参入障壁としてとらえ、国際投資紛争解決センター(世界銀行の一角)に訴えることができます。
これまでにも「カナダの郵便局は国家補助をもらっているから公平でない」とアメリカの民間会社が訴え、カナダ政府が莫大な賠償金を払うことになったり、メキシコではアメリカの会社がゴミ処理施設を作ろうとした際に地方自治体が建設許可を与えなかったことを訴え、メキシコ政府に賠償金を払わせたなどの事例が起きています。
当然、国内法よりも国際法・条約が優先されることになります。
ラチェット条項
また、TPPにはラチェット条項というものがあります。ラチェットというのは、逆回転をさせない歯車のようなものですが、いったん開放した部門を再び規制する逆回転はできないという条項です。すでに例外なしの合意を決めているTPPは後戻りができない、日本がいったん参入を決めたら取り返しがつかないのがTPPです。
やめるのは「今でしょ!」
このようにTPP参入によって、日本の公的医療保険制度は根底から破壊されてしまいます。マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」をご覧になった方も多いと思いますが、この映画は公的医療保険制度のないアメリカ医療の真実を描いています。映画は傷ついた自分の足を自分で針と糸で縫い合わせるシーンで始まって、医療費を払えなくなった高齢者が病院から追い出されて公園の前で捨て去られるというシーンで終わっています。日本の医療をこうしたアメリカ型のものにしてしまっていいのでしょうか。アメリカの保険会社の利益とそれに追随する日本の財界のために、日本人のいのちが犠牲になってもいいのでしょうか。私はかけがえのない国民のいのち、日本の公的医療保険制度を守るためにも、TPPには参入すべきではないと思います。
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